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vol.03 アマゾンの熱帯雨林保護区にて

 

 

エクアドルの首都キトから飛び立って、ギリギリの高度でアンデスの雪の山々をかすめて

縫うように越えると、東の空は遥か遠くまで雲海が波打っていた。

白い雲の下に、地球の裏から私が憧れ求めてやって来た

世界最大の熱帯雨林が広がっているかと思うと、希望と不安が交錯する。

ダイビングするようにグングン高度を下げて雲海を突き抜けると、

濃い緑の色彩が視界一杯に追って来ていた。

いつもの習慣で私の目は森林がどのような状況にあるのか細かく点検している。

飛行機から一歩出ると高い湿度と温度の洗礼を受け、

高原の町キトとは空気の肌触りがまったく違う。

ここは赤道直下でアンデス山脈にまだ近く、アマゾン河の上流部であるのに、

高度計は200メートルを指している。河口まで延々と蛇行して流れる大河アマゾンの

流域に果てしなく広がる低地熱帯雨林が実感できる。

地球上最後の秘境とか悪魔とか言われて恐れられ、夢やロマンをもとめる

探検家の活動する所と考えられていたアマゾン奥地に、

定期便に乗ってさしたる危険も冒さず降りたったことは

私にとってきわめて感動的な出来事であった。

しかしこれも考えてみると皮肉にも、近くで油田が見つかり、

その採掘によって開かれた町への交通を利用して初めて可能となったことである。

アマゾンの奥地とはいえ、エクアドルのこの辺りはすでに熱帯雨林の破壊が激しく進み、

特別な保護区以外では原生林は見られないとのことである。

石油のパイプラインに沿ってジープで二時間ほど走り、

その後船外機で三時間ほどかけてアマゾンの支流を遡り、

クヤベノという熱帯雨林の保護区にたどり着いた。

ここには欧米のNGOによって熱帯雨林の研究用に作られた施設があり、

アメリカやスイスから科学者が来て調査していた。

屋根と柱しかない小さな掘っ建て小屋があるのみだったが、

われわれもここに寝泊まりして、雨期によって水位が三メートルも上がって

湖沼のようになったこの地域を撮影した。

移動は巨木をくりぬいたカヌーで、エンジンを使用することは固く禁じられていた。

出したゴミは各自持ち帰ることを義務づけられ、小屋には電気すらもなかった。

これらはすべて環境への配慮からであると聞いたが、

私は彼らのストイックなまでに頑固な姿勢に頭が下がる思いがした。

-中央公論 1997年1月号より-


 

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